見た夢。
ミケという名前の単独クライミングによる登山をしている女の子。
まだ十代とみまちがう童顔の美少女で、金髪に近い淡い栗色の長い髪をしている。彼女は危険な登山やクライミングをいくつも成功させていて、誰とも馴れ合わずそっけない態度をとり、良くも悪くも有名人だった。
ある時彼女は世界一危険だと言われる崖に挑むことにした。
ほぼ直角の切り立った崖で、大きな滝があり水気によって滑りやすい。
有名な観光地でもあり、麓にはいくつかのホテルが建っていた。しかしクライミングについてはあまりに死者が多く危険なので、単独でのアタックが認められない。彼女は初めて誰かと一緒に登らなければいけなくなる。
彼女をサポートすると申し出てくれたのは元大学教授がリーダーをしている有名なグループだった。
彼女くらいに若い人が多く、皆気のいい人で彼女にも友好的に振る舞うが彼女は素っ気ないし、何なら話しかけないでと冷たくする。
中にはミケはプライドが高くて傲慢だと気を悪くする者も出る。
念願のアタックの日。
彼女は揃えてもらった人や装備をすべて置いていつものように自分の道具で、自分ひとりで登り始める。気づいた仲間が後から追いかけるが、ミケのあまりに軽やかで美しい登りかたに、彼女の技術は本物だと見直す。
暫く登り、滝の裏側になっている小さな洞窟でメンバーたちは休憩している彼女に追い付く。人が数人入っても余裕がある大きな洞窟で、涼しくて、滝の裏側が見えた。
彼女もメンバーたちがわざわざ追いかけてきたことに少し驚き、リーダーの優しい諭しによって少しだけ態度を軟化させて皆に今までの態度を謝る。
一緒に食事をし、和気藹々とした空気が流れ、ミケは嬉しそうな悲しそうな顔をする。
それに気づいたメンバーのひとりの女の子が、ミケはどうして単独で危険なクライミングばかりするの?と問い掛けると、ミケは少し口ごもった後に、無表情で顔を上げた。
「わたしのお母さん、カルト教団の教祖をしているの」
何の感情もない声。その場の皆と、電話の向こうにいた地上サポートにいた人も言葉を失くす。
喜んでも悲しんでもいない声でミケは続ける。
「わたし、25になったら教団に戻されて、子供を産まされて、生け贄として死ぬの。外の世界の汚れを引き受けて。そういう決まりなんだって。だからその前にせっかくなら綺麗な景色を沢山見たかった。途中で死んでも別によかったの」
ミケの告白に絶句する皆。
やがて、ミケをどうしても登らせてやろう、頂上について無事に降りられたら自分達がミケに手を貸してそんなところからは助けてやろう、ミケ、死ななくてもいい、そんなところ戻らなくてもいい。まずは頂上へ行こう、絶対に登頂しよう。と皆が言い出す。
彼女はそれを聞いてはじめて微笑む。
穴から這い出てアタックを再開する彼女を皆が見ていた。風に淡い栗色が靡く。とても美しい横顔だった。
(けれど彼女はこれっぽっちも自分が助かろうとは思っていないし、きっと教団へと帰ってしまうのだ)
という夢を見た。なんか哀しい夢だった。